令和3年 第一回定例会 予算特別委員会 質問「子どもアドボカシーの取り組みについて」

4 子どもアドボカシーの取り組みについて

村本議員:

アドボカシーとは、聞きなれない言葉かもしれないが、「当事者の声を聴き権利を守る」という意味で、子どもの声は小さく、大人や社会には届かないことが多いことから,子どもの意思に関わらず大人の意向で物事が決まっていくことが問題となっている。

 例を挙げれば、2019年に千葉県野田市で起きた虐待死事件は、子どもが「家に帰りたくない」と訴えていたにも関わらず、家に帰されてしまった結果であった。

 この分野の第一人者である熊本学園大学の堀正嗣教授によれば、「子どもの声が軽く扱われる背景に、子どもは黙っていろという文化があり、これは、英語でアダルティズム所謂子ども差別に当たる。子供は大人に比べて価値の低い存在だという意識の表れであり、その証拠に「子供だまし」「子どもの使い」など蔑視の意味が含まれる言葉が多数ある」との趣旨で述べている。 

 子を持つ親の一人として、これにはハッとさせられた。こういった意識を変えない限り、虐待や体罰は無くらないのではないか。

 子どもと大人は同等であり、人権の上で区別はなく、子どもの権利条約第12条にある意見表明権や聴かれる権利など、この茨城県から広めていかなければいけないと強く思う。

 子ども意見表明権は、子供に影響を及ぼす全ての事柄について、自由に自己の意見を表明する権利の事。しかし、弱い立場の子ども達が自分だけで権利を主張することは簡単ではない。子どもに権利があることを伝え、その意見を聞き、受け止め、自分の意見を大人や社会に伝えたいと思う時に、どうすればよいかを一緒に考え、情報提供し、行動を支援する人をアドボケイトと呼び、英国やカナダでは公的な制度となっている。そして、この意見表明権を保証するための取り組みが子どもアドボカシーである。

 厚生労働省でも、2019年に「子どもの権利擁護に関するワーキングチーム」を立ち上げ検討を行っている。

 そこで、児童福祉法分野でのアドボケイト制度の構築に向けて、国におけるこれまでの検討状況をどのように認識しているのか、福祉担当部長に伺う。

福祉担当部長:

 子どもの意見表明権は、委員ご指摘のとおり児童の権利に関する条約に規定された権利の1つ。

 令和元年に成立し、昨年4月に施行された「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」では、附則に、法の施行後2年を目途とする、児童の意見表明権を保障する仕組みについての検討規定が設けられた。

 なお、同改正法に関する国会の委員会審議においては、衆参両院で「子どもが意見を述べることを支援するための制度を構築し、子どもの最善の利益を確保するため、いわゆるアドボケイト制度の導入に向けた検討を早急に行うこと」との附帯決議がなされている。

 「子どもの権利擁護に関するワーキングチーム」では、関係団体等からのヒアリングを行うとともに、子どもの権利擁護の枠組みなどについて検討がなされており、今月中にも次回の会議が開催され、ワーキングチームとしてのとりまとめ案の作成に向けた議論がなされるものと認識をしている。

 県としては、会議における議論の状況やその後の国のアドボケイト制度の導入に向けた動きを注視していく。

村本議員:

 茨城県次世代育成プランの茨城県社会的養育推進計画には、「当事者である子どもの権利擁護の取組」に、子どもの権利擁護の観点から当事者である子どもの参画の重要性を述べている。

 子どもアドボカシーの普及やアドボケイトの育成など、国の制度・方針が決まったからと言って直ぐに成果が上がるものではない。

 特に、アドボケイトは、独立した第三者でなくてはならず、連絡が来て話を聞きに行けばよいというものではなく、子どもの信頼を得る存在である必要があり、その育成には時間がかかる。

 そこで、子どもアドボカシーの調査研究・アドボケイトの研修、現状の児童相談所でのアドボケイトに関する課題の把握など一日でも早く子どもアドボカシーの確立に向けた取組を開始する必要がある。以上、国の検討状況を踏まえ、県ではこれまでどのように取り組み、今後どう取り組んでいくのか、伺う。

福祉担当部長:

 子どもの権利や子どもの最善の利益はどの地域においても実現されるべきものであり、本県におきましても、意見表明権を含む子どもの権利の擁護のための取組を進めてきている。

 具体的には、子どもの施設入所にあたっては、児童相談所の職員が「施設生活の手引き」を渡し、権利の擁護や意見表明について年齢に応じた説明を行うとともに、施設職員を対象とする研修において、権利擁護に関する講義を実施している。

 また、施設入所後は、少なくとも年1回は児童相談所の職員が訪問調査を実施し、子どもから施設や学校での生活、家族との交流の状況などについて、聞き取りを行うとともに、今後の処遇の見通しについて説明を行っている。

 今後も、児童相談所において、子どもの処遇を決定する際の説明や子どもからの意見聴取を、引き続き丁寧に行っていく。

 また、昨年3月に策定した茨城県次世代育成プランにおいても、施策展開の方向性として、国の調査研究の結果等を踏まえ、審議会における子どもからの申立てによる審議、調査など、権利擁護に関する仕組みの構築に向けて、必要な検討を行うとした。

 こうしたことから、先ほども申し上げたとおり、国におけるアドボケイト制度の導入に向けた検討状況を注視し、制度が導入された場合には、県として必要な事項につきまして適切に対応していく。

村本議員:

 先ほどの千葉県野田市で起きた虐待死事件も、教育委員会が父親の異常ともいえる申し出に屈してしまい、いじめアンケート結果を渡してしまった。

 大人の社会のパワーバランスの中で物事が推移し、誰も子どもの気持ちに寄り添っていなかった。もし、アドボケイト制度があり、安否確認ではなく、子どもの意向を確認できていたら、支援をしていたら、このような痛ましい事件は起こらなかったのではないか。

 困難な状況にある子どもが、現実に声を上げることは難しい。そうした時に、子どもの本当の声を聴き、一緒に考えてくれるアドボケイトが必要。 是非、茨城県として、痛ましい事故を絶対に起こさないという決意のもと、アドボケイト制度の導入に積極的に取り組んでいただくことを要望する。